Socideaコラム

将来価値のある企業の無形資産を、どのように経営に活かせばよいか。成功している企業を参考にコラムを掲載しています。至らない点も多いのでフィードバックいただければ幸いです。

17 マーケティングと知的財産の関係はシンプル!?

 

地方のブランドや、技術的にニッチ企業を調べたいという場合、自ら探さなくても、待っているだけで、これらの情報が集まってくるのが地方の特許事務所である。通常、特許事務所は、特許庁へ特許や商標等を出願するための代理人であるが、結果的には、地方で未来の価値となる商品やサービスの情報が溢れている。そんな地方の価値あるものについて、またその価値を生み出す人達の心構えやノウハウを、公開可能な範囲で皆さんに共有できたらという想いでこのコラムを始めた。宮崎で、地域ブランドを考えたときに、最も伝えたいことは、知財の前にマーケティングの大切さについてである。ヒット商品は何かという問いに対してシンプルな考え方がある。「買う前に欲しいと思わせる力が強くて、買った後に買ってよかったと思わせる力が強いもの」とマーケターの梅澤氏が定義している。「買う前に欲しいと思わせる力」は、CMで魅力を伝えたり、良い口コミを公開する、その商品が購入予定者に期待させる力(コンセプト力)である。そして、「買った後に買ってよかったと思わせる力」は、商品を購入後に、その商品を体験して、美味しかったり、楽しかったりして、満足させる力(パフォーマンス力)である。このコンセプトとパフォーマンスの力が強い商品やサービスこそが、ヒット商品となり得る。ここで、本県を考えてみると、例えば、食べると美味しい果実や漬物が溢れているため、パフォーマンス力は強いと言えよう。しかし、まず、購入予定者に食べてもらえるかという課題があり、残念ながら、買う前に欲しいと思わせる力が充分ではない商品が多いと言えるのではないか。このコンセプト力を上げるには、商品のネーミングやパッケージのデザイン、CMの誘惑等、買う前に購入者に夢のような期待を与えるような伝える力を改善する必要があり、県のブランド推進本部等も商品デザインの指導に取組んでいる。そして、この魅力あるネーミングに対し商標権を取得したり、魅力あるパッケージのデザインに対し意匠権を取得して、このコンセプトの表現を知的財産権という独占権で守るのが知財の役割である。したがって、私のような特許事務所に来る商品は、価値のある商品の価値を長期間独占権で継続するためのものであり、価値そのものを創出しているのは、マーケティング力なのである。知財権そのものは価値あるものに付与された結果でしかない。本県においては、パフォーマンス力が高い商品が溢れているのだから、それを魅力あるものとして、しっかり伝えられるマーケティング力の更なる向上を期待したい。

16 経営の強みが技術の強みを生む

 

 中小企業の経営では、強みを意識した経営を行うことが望ましいと言われる、しかし、自社の強みが何か迷われる会社も多いのではないか。むしろ経営者自身が強みなどあまり意識することなく、日々の売上に格闘しているのが現実とも言えよう。地方都市宮崎には自社の強みを代々受け継いでいる企業がある。

南延岡駅近くの㈱興電舎は、創業昭和21年。創業者はアイロンの無料修理をして名を広め、モーター等の修理事業を始めた。現在では、大手企業から請負した電気関連の事業が主であるが、近年、世界にない独自商品を開発した。「ある企業から相談がありまして、規模の大きい工場の変圧器に電気を流す際に問題が発生します。これは励磁突入電流という電流が流れることで、電気を入れたときに最大20%の電圧が下がるため、工場の電気機器が壊れたり不調を起こしたりする場合があります。これをどうにか解決できないかと相談を受けました。」

 

同社は当時、九州電力OBの技術顧問と共に電力会社と電機メーカが行う同テーマへの研究に参画し、問題を解決する方法を模索していた。そして、変圧器に残る磁束の位相を正しく把握し、再度電気を入れる際に磁束の位相を調整することで、この励磁突入電流を制御できることを発見した。  さらに、元東芝の技術顧問にアドバイスを得ることもできて、 この制御を行う装置を開発し、特許を取得し、顧客の課題を解決することができた。この装置「Inrush-Limiter T1」は、同社の独自商品となり、現在、世界中から問い合わせを受けている。同社の強みとなる技術は、励磁突入電流を世界で初めて制御したノウハウが詰まったこの「Inrush-Limiter T1」であろう。そして、この技術を生み出す土壌となった独自の強みがある。それは、創業者の意志を継ぎ、周りの人々に役立てることはないかと言う視点で、顧客の課題に応える製品開発を行い、そしてそれを自社の強みとして、世界に挑む。まさしくこれが同社の強みであると言えよう。また、この新商品開発を裏で支えた電気保守事業の従業員の技術力が安定した同社の経営を支えていたことも無視できない。企業のアドバイザが企業の強みとして技術的な強みのみを強調しがちであるが、その技術的な強みを生む土壌は、経営の強みにこそあることを意識したい。

15 未来の先取りバックキャスト

 海藻など天然成分由来の食用膜で水を包み込めば、ペットボトルが不要になるのではないか。そんな発想でOoho!という商品が開発された。この皮膜は、風味や着色が可能で、自然環境下で生分解可能な梱包材として期待されている。このような夢の商品は、2014年に英国のスタートアップがペットボトルによる環境問題を解決することを目指し、2017年のロンドンオリンピックで利用された。

 現状の社会課題を根本から解決する可能性があるこのような発明は、我々に夢を与える。このような未来の技術シーズは、「知財図鑑」と呼ばれるWebサイト(chizaizukan.com)に掲載されており、未来の社会ニーズも併せて図鑑のように掲載されている。みなさんも、このサイトを拝見頂き、将来、活用できるような技術シーズで妄想をしてみてはどうか。

先程のOoho!の妄想例では、農薬や肥料をOoho!の食用膜で包み込み、ドローンで空中から散布すれば、ピンポントで栄養素を散布できるのではと提案している。このように未来を先取りした考え方は、ビジネスを真剣に考える際に、従来は一笑に付してしまったが、今は異なってきた。

「見えない資産が利益を生む」の著者、鈴木健二郎氏によると、アップルの成功は未来の先取りにあると言う。2007年にアップルはiPhoneを発売した。これは双方向で画像や動画を通信できるようになる5Gを予測して作られていた。5Gのサービスは日本では2020年にサービスが開始されており、10年以上先を予測して、商品開発が行われていたと言えよう。恐らく2007年の発売の数年前に、iPhoneは商品化の検討が開始されており、その時代において5Gは、妄想的な技術領域だったかもしれない。

しかし、その言わば妄想力でアップルは現在の地位にある。鈴木氏は、未来を予測する際に、現時点から未来を予測するフォアキャストの考え方と、来るべき未来を予測して、その未来から現在に戻って考えるバックキャストの考え方があるが、日本人は、フォアキャストによる考え方は得意であるが、バックキャストの考え方が足りないのではないかと提唱している。なぜなら、フォァキャストのほうが短期的な成果(売上等)に還元し易いからであろう。みなさんも、未来を長期的な視点で考えるバックキャスティングの手法をビジネスに取り入れ、長期的な戦略を検討してみてはいかがであろうか。

14 地方都市(宮崎)の起業の可能性

 

 私が12年前に宮崎に来て感じたことは、宮崎県は地方でありながら、多くの知的なアイデアが日々生まれているということだ。例えば、スマート農業、畜産、林業のような分野の発明については、現場をあまり知らない都会の会議室で生まれるのではなく、農業等の現場でこそ豊かなアイデア生まれる。まさしく宮崎はこの現場があり、アイデアが溢れる土壌があるのだ。しかし、なぜ新しいアイデアに基づく経済的な豊かさが充分ではないのか。それは、我々、知財関係者の責任も無視できないのではないかと考えている。

 高尾雅仁さんは、株式会社高尾薬舗の代表で宮崎市内に5店舗を構える薬剤師だ。彼は、服用すると身体が温まる生姜を含んだ成分の錠剤を開発した。しかし、この成分は古来から知られている漢方薬と類似しており、特許が取得できるのか高尾氏は悩んでいた。特許は、新規性という新しさがないと取得ができず、古来の漢方薬を説明する文献に記載があると新規性が拒まれて特許を取得できないからである。しかし、高尾氏は、この錠剤の新規開発のためコストもかけており、是非とも特許を取得したい。そこで、高尾氏は、この錠剤は、古来より身体を温めることは知られているが、血流改善剤としては知られていないのでは、と気がついた。また、古来から知られているのは、この成分で定性的に温かくなることが知られており、定量的なデータ(薬剤の配合割合)などは知られていない。そこで、高尾氏はこの薬剤を血流改善剤として薬剤の配合割合とともに、特許を取得することができた(特許第6940288号)。

 私は、このとき、我々知財専門家が、この発明を聞いたときに、古来の漢方薬と同じものであるから特許は取得できないと決めつけて処理をしたら致命的になると感じた。つまり、高尾氏の発明は、古来の漢方薬に基づいて、新たな用途(血流改善)とノウハウ(配合割合)にあり、そこをフォーカスすれば充分、特許を取れる。もちろん、特許だけで経済的に高尾氏が成功できるかは別問題であるが、特許の効果である、同じ成分を他社が20年間真似できないことの経済的効果は小さいとは言えないのではないのだろうか。

 

 発明のような知は、繊細な分岐を経て、社会に徐々に浸透していく。知的財産に関わる者は、この繊細な知をピンセットで分けていくミクロな目が必要であるといえよう。私自身も心がけなくてはいけない。

13 地方のグローバル先端企業

 

宮崎駅アミュプラザのビルに、ドキュメント・ソリューションを支える世界的な企業の開発拠点がある。株式会社スカイコムのR&Dセンターだ。同社は、PDF関連のソフトウェアを主力プロダクトとしており、日本で著名であるとともに、欧州では100万ライセンスを販売している。

 

同社、センター長の柴田氏によると、「PDFファイルは変更できないフォーマットという認識を持たれていることがありますが、実は様々な情報を格納できる「情報のデジタルコンテナ」です。そのPDFが本来持っている多彩な機能に独自の「電子サイン」技術を組み合わせ、これまで紙で行われていた業務をそのままデジタル化し、業務を一気に効率化します。例えば、銀行窓口での口座開設や、自動車購入時の契約など多くの身近なシーンで利用されており、タブレットで文書に手書きするといった場面では、スカイコムの製品が利用されているかもしれません。これら製品では、既存文書の紙フォーマットを変えることなくそのまま利用でき、また、PDFに設定されたフォームフィールドという入力機能や「電子サイン」技術を活用することで高度なペーパーレス化を実現できます」ということである。

 

この企業の知的財産は何であろうか?私は、ドキュメント・ソリューションのアイデアを全社的に創出する力、企業風土ではないかと考えている。特許の打ち合わせには、流暢な日本語を話す、外国籍のエンジニアも現れる。(宮崎市や宮崎大学などが取り組んでいるバングラデシュ人採用プログラムで採用したエンジニアとのこと。)日本人では当たり前に扱っている漢字フォントについて、外国人は通常、漢字のフォントデータをダウンロードしていない。それでも漢字を有する書類を閲覧可能にさせるアイデアは、先日、特許を取得した。外国の視点ではそういう発想があるのだなと感じることも多い。皆さんの宮崎駅で、今この瞬間もグローバル視点でのアイデアが創出されている。今後の同社の世界的な成長に期待したい。

12 宮崎のスタートアップについて

 先日の特許相談では、流暢な英語で発明の説明が始まった。遥か米国ボストンから西都市に移住してきた合同会社クロップウォッチの代表ケビン・ケントレルさん。彼は、米国でGAFAMでの職を断って、日本で農業IoTを発展させたいという想いで宮崎に来られた。同様に流暢に英語を話す奥様(池水さん)とまだ30代の二人。穏やかで謙虚でありながら知性溢れる二人の姿を見れば応援したくなる気持ちは抑えられなくなる。

 彼らの知的財産は何か?ケビンさんがグローバル視点で宮崎の農業等の現場を解決するためのアイデアを発想する点が最大の強みであり、これで特許を出願したり、実用新案を取得している。そして、それらのアイデアを事業化するために、半導体等のチップに直接プログラミングを行えるデバイス開発力があり、クラウドサーバ及び通信回線網までも自身で保有し、Webアプリケーションも自身で開発できる。すなわち、自分のアイデアを、アップルのような会社と同様のICT総合サービスを自前で提供できるのである。したがって、彼らは、現在、熱中症対策のスマートウォッチを開発中であるが、これは、GAFAMのような企業のクラウドサーバを利用することなく、クロップウォッチ社のみのクラウドサービスでサービスを提供できる。そのため、結果的に安価に提供できるし、データを大手企業に漏洩させる心配もない。

 また、通常、ICT企業は、IoT機器で新サービスを提供する際に、一般に販売されたIoTデバイスを買い、そのデバイスメーカが提供する制御プログラムを利用して開発を行う。しかし、ケビンさんは、そのデバイスの制御プログラムを自身で開発できるため、デバイスの性能を高めたり、改良することができる。これにより、例えば、彼らが提供するクロップウィッチというIoT監視装置は、通常の装置よりも電力消費が少ないCPUを利用して、安価に製造できるとともに、電源を必要とせず、太陽光とバッテリーで装置を稼働させることができる。宮崎のハウス農業や工場の現場で利用されることを期待したい。

 まだまだ、他県の動きと囚われがちのスタートアップであるが、こんな初々しい会社が宮崎にあることを知って頂き、応援して頂きたい。

 

11 師匠と弟子の商標戦争

 

 私は関東育ちであるので、宮崎に来て食した「腰のないうどん」を当初理解できず、なぜ宮崎県人がこれを好きなのか疑問に思っていた。しかしある夜、焼肉を食べた後の次の日の朝、若干、胃が持たれている状態で、柔らかいうどんを食べた際、胃に優しく、その繊細さにファンになり、今ではすっかり「柔らかいうどん派」になった。

 

 宮崎でも美味しく特徴的なうどん店、ラーメン店、焼肉店、チキン南蛮店等があるが、これらの店は、有名であるが故に商標の問題がしばしば起こる。店を始めた師匠が店名や商品名で商標を取らずに、弟子が商標を取得してしまうケースである。師匠と弟子は当初は仲良く、調理方法を師匠から習得する。しかし、次第に弟子は師匠から学ぶことがなくなり、独立していく。この際に、師匠に内緒で弟子が商標を取得し、独立した店舗で師匠の店名や商品名を使用する。師匠は、自身の腕が全てで、店名にこだわることがなく、商標権の費用が無駄と考えて商標出願しないことが多い。これに対して、弟子は、店名を正式に継いだ継承者となるために、その店名を使いたがる。弊所にも、実はこの弟子に当たる立場の方から商標出願の依頼をされることもあり、どうすればよいか迷う場合があった。結局、判断ができず商標出願をしなかった。このような事態にならないように、本家である師匠にはぜひとも、自身で商標登録を行っていただきたい。自身が本家であることを商標権の所有者で示して欲しい。正当な承継を弟子に行うのであれば、商標権を弟子に譲渡すればよい。

 

 商標法では、このような場合、師匠は弟子が商標を出願する前から、先に商標の名称を使用していたため、先使用権という権利が認められ、師匠は使用することができるという権利を決めている。これは、この師匠の店名等が多くの人に知られていて周知であれば、弟子による商標権の権利行使は免れ得る。しかし、これは裁判上、師匠と弟子が争った際に認められる抗弁の話であり、商標の権利としては弟子に帰属してしまう。師匠の立場は弱いと言わざるを得ない。師匠は商標出願12,000円を惜しまず出願をすべきであろう。

 それでは、仮に、商標権を行使されて店名を変えざるを得ない場合、どうやって損失を最小限にすればよいか。店の名前が変わるので、ネット検索で同じ店と認識されにくくなる。宮崎の老舗ホテルは、ある時に商標権の問題があり名前を変更した。この際に、3周年記念のイベントと一緒にホテルの名称を変更したため、名称変更が顧客のイメージダウンを落とさず成功している。

 

 

 

10 地名+名称でも商標が取れる?

 

 「宮崎牛」、「青井岳温泉」のように普通に使われる言葉は、商標を取得できるのか?このように、地名+商品やサービスの普通名称からなる言葉は、どの企業も自分だけが独占したい言葉であり、欲しくなる言葉であろう。畜産会社が一社だけが「宮崎牛」を使って良いという状態になれば、それ以外の会社は大変な損失になる。しかし考えてみれば「宮崎牛」という言葉をブランド化するまでには、多くの企業や行政が関わっており、一社だけで独占するのは不平等である。そこで、地域団体商標という制度で一定の団体や事業協同組合、商工会議所等のみがこういった言葉の権利を取得できるとした。各企業は、これらの団体や組合に加盟して、商標を使うことができる。これが実は王道であって抜け道がある。鹿児島肝付町のシャツメーカーは、商標「鹿児島シャツ」を商品「衣服」で登録したのだ。

 

この言葉も、地名+商品の普通名称からなるので原則、地域団体商標でないと登録ができない。しかし、登録されたのは、鹿児島シャツという言葉とともに特徴的な蝶のロゴが付いてるからである。地名+普通名称の商標の抜け穴としてロゴ付きで出願することで商標が取得できる場合があるのだ。この場合、商標はこの「鹿児島しゃつ」という言葉のみではなく、蝶のロゴを含めたものでないと商標として権利行使等ができない。すなわち、言葉のみを真似された場合、商標の効力として充分ではない場合がある。しかし、商標登録はされるため、海外で効力を発揮することがある。日本の商品を海外で販売する際に、日本での商標登録が、その商品の本来の生産者であることを公的に示す証拠になる場合があり交渉において重要になることがある。商標の権利効力として必ずしも充分ではなくても、交渉の手段として登録商標が有効に働くことがある。

9 商標が類似しているとは?

 

宮崎では「ひなた」という言葉が大人気の時期があった。焼酎、キャビア、お土産のお菓子、果実、漬物、水産物、なんでも、とにかく「ひなた」で商標登録したいという相談が集中した。

商標は早いもの勝ちであり、2重重複での登録は許されない。例えば、「ひなた」を誰かが「焼酎」で登録したら、他人は「ひなた」を「焼酎」で商標登録できない。では、「HINATA」なら登録できるのか?我々弁理士の判断基準は、その類似商標が、焼酎が販売されているスーパーの棚に並んでいる際に、異なる生産者であることを識別することができるかで判断する。スーパーの芋焼酎の棚に「ひなた」、「HINATA」、「ヒナタ」のラベルがあって、これらが識別されて、異なる会社から製造されたものと認識するのは難しいと考えるのが一般的であろう。したがって、これらは類似する商標とされる。このように、ひらがな、カタカナ、ローマ字、大文字小文字等の変換のみでは、社会通念上同一と見られて、商標は同一又は類似と判断される。この類似の判断基準は、3つあり、呼び方、外観、意味の3つを総合的に判断される。「HINATA」と「ヒナタ」は呼び方がほぼ一緒であるが外観が異なる。しかし、呼び方が外観よりも識別する比重が高いと考えられ、両者は類似と判断されるのだ。日南では「日南」を「ひな」と呼ぶが、商標を出願する際に、「日南(ひな)」として出願すると、鳥の「雛」と類似となるが、呼び方を記載せずに「日南」とだけ記載すれば、類似とはならず登録ができる。出願する際の態様も登録には重要である。

 次に商標で重要なのは、指定する商品・サービスである。朝日新聞とアサヒペイントは、「アサヒ」で共通するが、それぞれ、商標を取得できる。これは、「アサヒ」という言葉を、前者は商品「新聞」で登録し、後者は「塗料」を登録しており、商標を指定する商品が異なるから、両方とも登録できるのである。

 

8 権利の風穴を空けて商標を獲得

 

 地域活性化の目的でスマホアプリで利用できる地域共通クーポンが利用されている。このアプリでは「QRコード」を使用するが、これはデンソーウェーブ社の登録商標であることをご存知であろうか?「QRコード」がフリーで使用できることは知っている方も多いと思うが、この言葉は使う際には、注意が必要なのである。例えば、開発した商用アプリに「QRコード」という言葉を使う場合は、デンソーウェーブに相談する必要がある。

 「Bluetooth」、「フロッピー」、「ポストイット」、「セロハンテープ」、「ポリバケツ」、「マジックテープ」、「万歩計」、「宅急便」、「テフロン」、「テトラパック」、「ウォッシュレット」。これらの言葉も同様に、登録商標なので使用する際には注意が必要である。

 商標は、特許庁の商標データベースである「J-PlatPat」を使えば、無料で調査をすることができる。商標は、権利が20年である特許と異なり、存続期間が事実上存在しない。いくらでも更新ができるのである。考えてみれば、例えば「SONY」という商標が、20年経つと使えなくなるということになれば「SONY」社にとっては致命的な問題となる。したがって、商標は10年毎に更新して、永久に権利を保持できるのである。これは逆に言うと、一度商標登録されると、放棄の意思がない限り永遠に存続してしまう。商標は、同じような言葉やロゴでは、2重で登録ができない。したがって、登録商標が増加すると、新しく商標を出願した場合に、先に登録された商標により登録が拒まれるのである。

 高千穂で新商品の菓子を売り出した佐藤さんは「かぐらの舞」という商標を出願した。しかし、東北の方が「神楽の舞」という商標登録を先に取得しており、両者は言葉が類似しているので特許庁から登録を拒まれた。そこで調べたところ、この東北の「神楽の舞」の商標は全く使用されていないようなので、この商標は使用されていないから、そもそも登録を取消してほしいと特許庁に請求した。登録商標は、登録から3年間経過しても使用をしていない場合に、登録を取消すように他人が特許庁に請求できるのである。この東北の商標権者には、特許庁から通知が送られ、「神楽の舞」の商標を使用しているならば、その証拠を送って欲しいと連絡する。これで証拠を送らなければ、登録商標が取消される。実際に、この登録商標は特許庁に取消され、佐藤さんは無事「かぐらの舞」の商標を獲得できたのである。このように、多数の商標が登録されている現在では、使用されていない商標を取消すことで、風穴が空き、貴社が商標を獲得できるのである。

 

7 地方企業のよくある商標の失敗

 

自社の大事な商品やサービスは商標登録をしなくてはならない。ここまではご存じの方も多いであろう。近年、商標登録の数は増加しており、2020年で200万近くの言葉が商標登録されていると言われている。これは、広辞苑8冊分に相当する量の言葉であり、これだけの言葉が、商売で自由に使えない言葉として登録されている。新店舗や新商品のネーミングは注意して選択しなくてはならない。

8年ほど前、宮崎市で開店したばかりの整骨院「コリトレルン」(仮名)に、一通の内容証明郵便が届いた。

「貴社の行為は、当社の商標権を無断で使用しており、当社の利益を害する。即刻、その店名・サービス名の使用を中止するとともに、当社の損害に対する賠償に応じる必要が・・・」郵便送付元は、東京赤坂の法律事務所である。

私は、このように都会の商標権者が、地方の無商標権者に対する商標権の権利行使を多く見てきた。この整骨院の代表は、慌てず我々に連絡をしたので、大事には至らず、即時に名称変更をすることで、賠償金がなく解決された。しかし、新規で制作した看板やパンフレット、Webページはネーミング変更の費用がかかった。

 東京の商標権者が、宮崎市のような地方の中小事業者に商標権の権利行使をすることは、以前はそれほど多くなかった。なぜならば、商標権者が商標を遠方で使用されていることに気が付かないからである。しかし、現在は、インターネットで自身の商標を言葉として検索できるため、宮崎のような地方であっても、直ぐに商標権者が気付く。

 本件では、商標権者も同じく整骨院を東京で営んでおり、ここの患者から「最近、宮崎で店舗を開かれたのですか?ネットで「コリトレルン」を検索したら宮崎市に整骨院の店舗がありましたよ」との患者からの指摘により宮崎市での使用が発覚したのである。

 商標の問題というと中国を想起すると思うが、これは日本の著名な名称について中国で商標権を予め取得しておき、この著名な名称を正当な権利者が中国で使用したときに、商標権者が商標を高額に買い取らせるという問題である。

 

 一方本件、整骨院の場合は、このような悪意のあるケースとは言えず、商標権者の立場から考えれば、宮崎市の整骨院が仮に質の良くないサービスを行った場合に、自社の整骨院の名称「コリトレルン」の評判が落ちることを恐れる。これは商標の希釈化と呼ばれるが、これを恐れるために、内容証明郵便を送り使用を差し止めるのである。

 6 大企業のアイデアを自社の経営に活かせる!?

 

 前回、川崎モデルと呼ばれる特許マッチングにより、キューピー㈱の特許を高齢者向けの商品開発に中小企業が活用した事例を紹介した。キューピー㈱のような食品関連企業の特許は、食が豊かな宮崎では活用しやすい特許であろう。食品以外の分野でも、例えば、紫外線やプラズマによって雑菌やウィルスを死滅させたり、焼酎粕や食品残渣をバイオプラスチックの原料とするといった技術も、本県に有用の可能性があり、これらのアイデアを活用できる可能性がある。

 前回紹介した川崎モデルのように他社の特許を自社で活用する際に、アイデアの利用用途としては、以下の3つが考えられる。第1に、このキューピー㈱の例のように、自社で新たに販売する新商品開発のためにアイデアを調達することである。大牟田市内の宅配弁当事業者であるキュリアス社は、キューピー㈱が保有する根菜類を軟らかくする特許を、高齢者向けの宅配弁当に入れる煮物などに活用して新しいお弁当を開発し売上を伸ばした。すなわち、売上向上のためのアイデア調達である。

 第2に、経費削減のためのアイデア調達である。これは、自社が製造する商品や提供するサービスの経費を削減し、利益を上げるためのアイデア調達である。例えば、最近のスーパーでは、セルフレジという知財が導入されて、人件費が削減された。

 第3には、環境を配慮した製品作りのためのアイデア調達である。従来の製造工程よりもCO2排出量が抑えられる製造技術のアイデアや、製造工程で発生する殺菌処理を所定の化学薬品ではなく、環境に優しい殺菌方法に切り替えるなどSDGsに配慮したアイデアの調達である。

 これらのアイデアを自社に導入するために、まずは、貴社の経営課題を改めて見直し、課題を細分化してみてはいかがであろうか。この経営課題の中で技術的課題を抽出し、この技術的課題については、特許などのシーズアイデアが克服できる可能性がある。

 これらの取り組みを行うためには、まずは、アイデアの調査が必要であり、特許を主軸に調査するのであれば、特許書類を分析できなくてはならない。特許を出願するだけではなく、特許の検索方法や分析方法に関しての相談は、中小企業、スタートアップ企業であれば、公的に無料の相談を受けられる。47都道府県には、INPITの知的財産総合支援窓口が設けられており、ここに連絡をすれば、弁理士に限らず、特許調査の専門家等アドバイスを無料で受けられる。

 5 研究開発の緒に特許情報を活用しよう

 

 前回、企業は、有形資産投資よりも、価値が高い無形資産に今後は投資すべきことを提案した。この無形資産投資とは、具体的には、研究開発投資になるが、これを資金が少なくても「知」を駆使して、取り掛かる方法について一例を紹介したい。

 企業は特許を出願すると、1年6ヶ月で一般公開される。また、特許の審査が終わって、特許権が成立したタイミングでも特許が公開される。この公開情報は、J-PlatPatという特許庁のデータベースで誰もが確認することができる。御存知の通り、特許は特許庁の審査を経て、特許性があるものだけが登録される。したがって、特許出願されたが、登録されずに公開されている特許もある。この特許が成立していない特許情報を活用して、自社の商品開発にアイデアを活かせる可能性がある。また、特許が成立していても、その特許が使用されていない所謂、休眠特許であったり、死蔵特許(発明者ですら忘れ得られている特許)である場合は、その特許権者から特許使用のライセンスを得て、自社の商品開発を行う。これは特許シーズとこれを利用するニーズとのマッチングで、知財マッチングと言われている。昨年、この知財マッチングを行う九州の団体が九経局の補助金で立ち上がっている(iAm:無形資産マッチングサービス)。知財マッチングは若干手間がかかるということであれば、他にも手はある。利用したい技術の特許が成立していても、公開された特許の一部からインスピレーションを得て、異なる課題や解決手段である発明を考えれば、合法的に新商品のアイデアを得ることができる。すなわち、特許情報は着想の宝庫であり、これを研究の緒とすることが可能である。

 平成28年より川崎市は、大企業が持つ休眠特許等の知的財産を中小企業に紹介することで、自社の製品開発を支援するモデルを始めた。このマッチングモデルは、現在では、川崎モデルと呼ばれている。富士通、リコー、ミツトヨ等の大手企業がこの川崎モデルに賛同し、特許を開放している。九州でこのモデルで成功例として知られるのは、大牟田柳川信用金庫のマッチングで、大牟田市内の宅配弁当事業者であるキュリアス社に、キューピー株式会社が特許をライセンスした成功例である。これは、キューピーが持つ根菜類を軟らかくする特許を、高齢者向けの宅配弁当に入れる煮物などに活用している。

4 無形資産への投資の時代

 

 通商白書2022「第3節 無形資産と経済成長」の欄には、日本、米国、欧州、各主要企業の企業価値に占める無形資産と有形資産の割合が示されている。驚くことに、米国、欧州の企業は、7割以上(2015年)が無形資産であるのに対して、日本や中国は3割程度であり、大きな差がある。これは何を意味するのか?一般に、企業が行う投資は、有形資産投資と無形資産投資で構成され、機械設備や工場などの構造物は有形資産、研究開発投資は無形資産とされている。米国のGAFAMの台頭やスタートアップ企業の興隆によっても明らかなように、新しい技術に関連する市場が拡大している現在では、各企業がビジネス機会を逃さないために、新しいアイデア、即ち、無形資産に投資する必要がある。

 無形資産投資の必要性は、中小企業にも当然あてはまるとは思いながらも、具体的に何をすれば良いのかわからず、踏み出せない企業も多いのではないだろうか。

 ものづくり白書2019では、ものづくりが与える付加価値がスマイルカーブを描くことを伝えている。すなわち、ある製品について、企画・設計工程、試作品開発工程、生産・組立工程、販売工程、サービス提供工程といった、ものづくりの一連の工程において、最初の企画・設計工程であるアイデア段階と、販売後のサービス提供工程の付加価値が高いとされている。これは、モノの生産・組立がグローバル化やICT化により相対的に価値が下がってしまい、モノの企画段階や製品を販売した後のサービスとして提供するビジネスモデルが重要視される時代になったことを意味する。この価値の低い生産・組立工程に対する投資が機械設備や工場等の有形資産投資であり、価値の高い企画・設計段階での新しいアイデアに対する投資や、サービス工程でのビジネスアイデアに対する投資が無形資産投資にあたる。勝負に勝つためには、当然、付加価値の高い対象にBETすべきであろう。中小零細企業であっても、未来を創る無形資産投資、即ち、研究開発投資を、常に意識することが今後の経営に不可欠ではないだろうか。

 

3.地方の知財を都会にライセンス

 

特許事務所である私の事務所に、宮崎市内の発明家浜元氏が特許公報を持ってやってきた。この特許は、自転車のギアに関する特許である。同氏は、大手自転車製造会社に特許公報を送ったが、特許を事業として採用されるには至らなかったので、何か手がないかということである。

しかし、その後、10年近く、浜元氏の努力と私の僅かながらの支援で、都内の大手小売企業との特許ライセンス提携が始まり、今ではイオングループの各店舗で、その商品が販売されている。電気を使わないで推進力が得られる「FreePower」という商品である。

これは、地方のアイデアが都会の企業に買われた知財マッチングの事例であり、私はこの状況を、地方から都会へのアイデアの「輸出」と呼んでいる。

一方、現在、知財マッチングとして「川崎モデル」という手法がある。これは、川崎市の上場企業、例えば、富士通等の大手上場企業が使用しない休眠特許を、中小企業にライセンスするマッチングである。これは、都会のアイデアが地方の企業に買われる事例であり、私のこの状況を、地方にとって、都会からのアイデアの「輸入」と呼んでいる。この川崎モデルは、宮崎県や信用金庫等が採用し、北海道、福岡等の中小企業で成果が報告されている。確かに、アイデアの輸入でも一定の成果は得られるのであるが、本来的には、地方はアイデアの「輸出」に力を入れるべきではないだろうか。つまり、地方の知を都会に許諾(ライセンス)して使わせる。筆者の経験から、都会よりも地方の方が、核心をついたアイデアが浮かびやすい分野も多いのではないかと考えている。というのは、革新的な発想は、会議室よりも、現場で起こる場合も多いからである。畜産の発明をIoTで遠隔で支援するといった発明や、ドローンで農業を支援する発明のヒアリングを筆者は経験があるが、都会の高層ビルの会議室でアイデア出しをするよりも、牛の表情が見える牛舎や、稲穂の状況が確認できる田畑の現場で生まれるアイデアのほうが、机上の空論ではない、価値のあるアイデアが出やすい。地方ならではの特徴を活かしたアイデアを、都会にライセンスするという発想は、決して夢ではない。

浜元氏は、社会保険労務士の士業を営む方で、自転車の素人でしたが、私は彼がデッサンした美しい自転車のギアが書かれた図面を何枚も拝見した。この発想は世界で自分しかいない、この自転車は世界中で求められており、自分が商品化する、そういった強い想いが、成功を導いたと言える。

 

オープン・イノベーションの時代と言われて久しい。これは、組織の外部から技術やアイデアを積極的に用いて、市場に応えるサービスや商品を提供していくことであるが、中小零細企業に、オープン・イノベーションは必要ですか?という質問をされたことがある。むしろ、逆で、中小零細企業こそ、アイデア創造、製造、販路開拓と全てを一社で行うことはできないのであるから、本来的にオープン・イノベーションの生態系であると言える。つまり、時代は、中小零細企業の時代である。ここで、アイデア、知の創出は、原料仕入れ等の経費を必要としない。地方でも充分、戦える強力なツールなのである。まずはゆっくり休んで、ご自身がワクワクする発明を週末にでも考えてみではいかがだろうか?

 2  知財のチラ見せ 市場優位性アピール  

 

 グロース市場に上場しているスタートアップの株が9月、ストップ高となった。背景には、特許取得のプレスリリースを含むIR(インベスター・リレーションズ=投資家向け広報活動)の公開があると関係者は分析している。その効果は数十億円以上といわれている。

 2021年6月、上場企業は知財への投資について自社の経営戦略・課題との整合性を認識し、具体的に情報を開示・提供すべきであることに加え、経営資源の配分や事業ポートフォリオ(商品構成)に関する戦略の実行が企業の持続的な成長に資するよう、取締役会が実効的に監督すべきであることが盛り込まれた。いわゆるコーポレートガバナンス・コード(企業統治原則)の改訂である。

 これにより、知財の先進的な試みを行う企業が投資家に知財を「チラ見せ」することで市場への優位性を示す事例も見られるようになった。知財のチラ見せは上場企業でも試みが始まったばかりだが、中小零細企業でも企業価値を社会に認識してもらうために活用することができるだろうか。

 上場企業であれば、株主に対して上述のような説明ができるが、非上場の場合はその舞台がない。このテーマは我々知財専門家の課題であるが、一つ確実にいえることがある。それは、企業が他人に見せられる情報と見られたくない情報を整理できていることが前提ということである。

 「オープン・クローズ戦略」ともいわれる、この戦略を検討すると、どの情報が自社の鍵となり、どの情報が市場を魅了するのかを企業が明確に認識できる。重要な情報を他人に漏らさないでアピールできるという効果のみならず、経営者自身がオンリーワンの技術を意識し、持続可能な成長戦略を描けることもある(当然、技術に依存し、描けない場合もある)。

 特許は、世界中に存在しない発明でないと取得ができない。そして、そのオンリーワン特許技術の持続的な成長が「いつかはナンバーワンになれるのではないか」といった前向きな経営者のグローバル意識を生み出すことを筆者は経験している。知財活動は市場などへの外的なアピールのみではなく、内的な自社の特徴・個性に目覚め、グローバルを目指す意志を生み出す起点としても有効である。

1 技術力や知的財産による担保の時代へ

 

2年前、ある九州の食品製造会社が買収されることになった。この会社が所有する食品加工用の機械が売却されることになり、金額は300万円。しかし、その機械は、通常の従業員では、年間2000万円弱の売上を生み出すところ、その会社の特別な技術を有する従業員が操作すると年間1億円のキャッシュを生み出す。結局、その機械は300万円で売却されたが、売却側の経営者であれば、この機械に従業員のノウハウを加味して、もっと高く売却することができたなら、と考えるのではないだろうか。

10月、不動産等の有形資産のみならず、無形資産を評価することで中小企業やスタートアップにマネーを供給することを政府が検討していることが報じられた(令和41019日:日本経済新聞)。金融庁が、従来のような不動産のような有形資産の担保だけではなく、技術力や知的財産も担保にできる新法を検討し始めたのである。似たような事例として、農業分野における地銀の活動では、和牛などを担保にして融資する「動産担保融資」に取り組む事例もある。

宮崎のような中小企業が多い県は、自身の技術力で融資が受けられる時代が果たして到来するのであろうか。これからの無形資産担保に期待したいが、そもそも、担保とする無形資産を、経営者自身は認識できているのであろうか?それは、中小企業に限った問題ではない。上場企業でも同様である。

例えば、企業が、特許や意匠等の知的財産権を有していれば、それらは無形資産と捉えることができるであろう。しかし、単に、特許等の権利を持っているだけでは、定性的な情報が得られるだけで、定量的な金額に示される価値を測ることは困難である。と言うのは、その企業が、ある特許技術を有しているという事実のみで、市場価値との関連は見えてこない。

無形資産である知財は、そのままでは、いくら儲けているの?という答えには、答えられないからである。そこで、特許等の技術と市場ニーズとの関わりを調べないことには、無形資産を定量的に認識することはできないのである。

現在、市場に敏感な証券会社等の金融機関と、特許を取り扱う知財専門家の連携が始まっている。特許庁も知財金融という言葉の浸透に力を注いでいる。

市場を捉えている金融機関の目で、特許等の知財をバリュエーションし、中小企業の事業価値を評価することができるのである。

 

従来より、大企業のエンジニアは、自身に負わされたノルマで定期的に特許出願し、市場との結びつきが必ずしもあるとはいえない休眠特許を生み出していた現実が日本にはある。しかし、中小零細企業の特許は、その企業のコア技術であり、市場競争力が高い技術の権利を取得されている場合が多い。この中小企業の特許に対する市場に対する評価が充分に行われれば、財務基盤が必ずしも強くない企業が、非財務的な観点である技術力が示す本来的な価値評価に繋がるではないだろうか。宮崎では、例えば、農業分野、畜産分野において、既に充分な技術力、ノウハウ、営業秘密を有する中小企業も数多い。無形資産を見える化し、市場の評価を検討して、金融機関とともに中小零細企業の活性化を期待したい。(宮崎日日新聞 掲載記事 令和5年1月27日 詳細版)