Socideaコラム

将来価値のある企業の無形資産を、どのように経営に活かせばよいか。成功している企業を参考にコラムを掲載しています。至らない点も多いのでフィードバックいただければ幸いです。

4 無形資産への投資の時代

 

 通商白書2022「第3節 無形資産と経済成長」の欄には、日本、米国、欧州、各主要企業の企業価値に占める無形資産と有形資産の割合が示されている。驚くことに、米国、欧州の企業は、7割以上(2015年)が無形資産であるのに対して、日本や中国は3割程度であり、大きな差がある。これは何を意味するのか?一般に、企業が行う投資は、有形資産投資と無形資産投資で構成され、機械設備や工場などの構造物は有形資産、研究開発投資は無形資産とされている。米国のGAFAMの台頭やスタートアップ企業の興隆によっても明らかなように、新しい技術に関連する市場が拡大している現在では、各企業がビジネス機会を逃さないために、新しいアイデア、即ち、無形資産に投資する必要がある。

 無形資産投資の必要性は、中小企業にも当然あてはまるとは思いながらも、具体的に何をすれば良いのかわからず、踏み出せない企業も多いのではないだろうか。

 ものづくり白書2019では、ものづくりが与える付加価値がスマイルカーブを描くことを伝えている。すなわち、ある製品について、企画・設計工程、試作品開発工程、生産・組立工程、販売工程、サービス提供工程といった、ものづくりの一連の工程において、最初の企画・設計工程であるアイデア段階と、販売後のサービス提供工程の付加価値が高いとされている。これは、モノの生産・組立がグローバル化やICT化により相対的に価値が下がってしまい、モノの企画段階や製品を販売した後のサービスとして提供するビジネスモデルが重要視される時代になったことを意味する。この価値の低い生産・組立工程に対する投資が機械設備や工場等の有形資産投資であり、価値の高い企画・設計段階での新しいアイデアに対する投資や、サービス工程でのビジネスアイデアに対する投資が無形資産投資にあたる。勝負に勝つためには、当然、付加価値の高い対象にBETすべきであろう。中小零細企業であっても、未来を創る無形資産投資、即ち、研究開発投資を、常に意識することが今後の経営に不可欠ではないだろうか。

 

3.地方の知財を都会にライセンス

 

特許事務所である私の事務所に、宮崎市内の発明家浜元氏が特許公報を持ってやってきた。この特許は、自転車のギアに関する特許である。同氏は、大手自転車製造会社に特許公報を送ったが、特許を事業として採用されるには至らなかったので、何か手がないかということである。

しかし、その後、10年近く、浜元氏の努力と私の僅かながらの支援で、都内の大手小売企業との特許ライセンス提携が始まり、今ではイオングループの各店舗で、その商品が販売されている。電気を使わないで推進力が得られる「FreePower」という商品である。

これは、地方のアイデアが都会の企業に買われた知財マッチングの事例であり、私はこの状況を、地方から都会へのアイデアの「輸出」と呼んでいる。

一方、現在、知財マッチングとして「川崎モデル」という手法がある。これは、川崎市の上場企業、例えば、富士通等の大手上場企業が使用しない休眠特許を、中小企業にライセンスするマッチングである。これは、都会のアイデアが地方の企業に買われる事例であり、私のこの状況を、地方にとって、都会からのアイデアの「輸入」と呼んでいる。この川崎モデルは、宮崎県や信用金庫等が採用し、北海道、福岡等の中小企業で成果が報告されている。確かに、アイデアの輸入でも一定の成果は得られるのであるが、本来的には、地方はアイデアの「輸出」に力を入れるべきではないだろうか。つまり、地方の知を都会に許諾(ライセンス)して使わせる。筆者の経験から、都会よりも地方の方が、核心をついたアイデアが浮かびやすい分野も多いのではないかと考えている。というのは、革新的な発想は、会議室よりも、現場で起こる場合も多いからである。畜産の発明をIoTで遠隔で支援するといった発明や、ドローンで農業を支援する発明のヒアリングを筆者は経験があるが、都会の高層ビルの会議室でアイデア出しをするよりも、牛の表情が見える牛舎や、稲穂の状況が確認できる田畑の現場で生まれるアイデアのほうが、机上の空論ではない、価値のあるアイデアが出やすい。地方ならではの特徴を活かしたアイデアを、都会にライセンスするという発想は、決して夢ではない。

浜元氏は、社会保険労務士の士業を営む方で、自転車の素人でしたが、私は彼がデッサンした美しい自転車のギアが書かれた図面を何枚も拝見した。この発想は世界で自分しかいない、この自転車は世界中で求められており、自分が商品化する、そういった強い想いが、成功を導いたと言える。

 

オープン・イノベーションの時代と言われて久しい。これは、組織の外部から技術やアイデアを積極的に用いて、市場に応えるサービスや商品を提供していくことであるが、中小零細企業に、オープン・イノベーションは必要ですか?という質問をされたことがある。むしろ、逆で、中小零細企業こそ、アイデア創造、製造、販路開拓と全てを一社で行うことはできないのであるから、本来的にオープン・イノベーションの生態系であると言える。つまり、時代は、中小零細企業の時代である。ここで、アイデア、知の創出は、原料仕入れ等の経費を必要としない。地方でも充分、戦える強力なツールなのである。まずはゆっくり休んで、ご自身がワクワクする発明を週末にでも考えてみではいかがだろうか?

 2  知財のチラ見せ 市場優位性アピール  

 

 グロース市場に上場しているスタートアップの株が9月、ストップ高となった。背景には、特許取得のプレスリリースを含むIR(インベスター・リレーションズ=投資家向け広報活動)の公開があると関係者は分析している。その効果は数十億円以上といわれている。

 2021年6月、上場企業は知財への投資について自社の経営戦略・課題との整合性を認識し、具体的に情報を開示・提供すべきであることに加え、経営資源の配分や事業ポートフォリオ(商品構成)に関する戦略の実行が企業の持続的な成長に資するよう、取締役会が実効的に監督すべきであることが盛り込まれた。いわゆるコーポレートガバナンス・コード(企業統治原則)の改訂である。

 これにより、知財の先進的な試みを行う企業が投資家に知財を「チラ見せ」することで市場への優位性を示す事例も見られるようになった。知財のチラ見せは上場企業でも試みが始まったばかりだが、中小零細企業でも企業価値を社会に認識してもらうために活用することができるだろうか。

 上場企業であれば、株主に対して上述のような説明ができるが、非上場の場合はその舞台がない。このテーマは我々知財専門家の課題であるが、一つ確実にいえることがある。それは、企業が他人に見せられる情報と見られたくない情報を整理できていることが前提ということである。

 「オープン・クローズ戦略」ともいわれる、この戦略を検討すると、どの情報が自社の鍵となり、どの情報が市場を魅了するのかを企業が明確に認識できる。重要な情報を他人に漏らさないでアピールできるという効果のみならず、経営者自身がオンリーワンの技術を意識し、持続可能な成長戦略を描けることもある(当然、技術に依存し、描けない場合もある)。

 特許は、世界中に存在しない発明でないと取得ができない。そして、そのオンリーワン特許技術の持続的な成長が「いつかはナンバーワンになれるのではないか」といった前向きな経営者のグローバル意識を生み出すことを筆者は経験している。知財活動は市場などへの外的なアピールのみではなく、内的な自社の特徴・個性に目覚め、グローバルを目指す意志を生み出す起点としても有効である。

1 技術力や知的財産による担保の時代へ

 

2年前、ある九州の食品製造会社が買収されることになった。この会社が所有する食品加工用の機械が売却されることになり、金額は300万円。しかし、その機械は、通常の従業員では、年間2000万円弱の売上を生み出すところ、その会社の特別な技術を有する従業員が操作すると年間1億円のキャッシュを生み出す。結局、その機械は300万円で売却されたが、売却側の経営者であれば、この機械に従業員のノウハウを加味して、もっと高く売却することができたなら、と考えるのではないだろうか。

10月、不動産等の有形資産のみならず、無形資産を評価することで中小企業やスタートアップにマネーを供給することを政府が検討していることが報じられた(令和41019日:日本経済新聞)。金融庁が、従来のような不動産のような有形資産の担保だけではなく、技術力や知的財産も担保にできる新法を検討し始めたのである。似たような事例として、農業分野における地銀の活動では、和牛などを担保にして融資する「動産担保融資」に取り組む事例もある。

宮崎のような中小企業が多い県は、自身の技術力で融資が受けられる時代が果たして到来するのであろうか。これからの無形資産担保に期待したいが、そもそも、担保とする無形資産を、経営者自身は認識できているのであろうか?それは、中小企業に限った問題ではない。上場企業でも同様である。

例えば、企業が、特許や意匠等の知的財産権を有していれば、それらは無形資産と捉えることができるであろう。しかし、単に、特許等の権利を持っているだけでは、定性的な情報が得られるだけで、定量的な金額に示される価値を測ることは困難である。と言うのは、その企業が、ある特許技術を有しているという事実のみで、市場価値との関連は見えてこない。

無形資産である知財は、そのままでは、いくら儲けているの?という答えには、答えられないからである。そこで、特許等の技術と市場ニーズとの関わりを調べないことには、無形資産を定量的に認識することはできないのである。

現在、市場に敏感な証券会社等の金融機関と、特許を取り扱う知財専門家の連携が始まっている。特許庁も知財金融という言葉の浸透に力を注いでいる。

市場を捉えている金融機関の目で、特許等の知財をバリュエーションし、中小企業の事業価値を評価することができるのである。

 

従来より、大企業のエンジニアは、自身に負わされたノルマで定期的に特許出願し、市場との結びつきが必ずしもあるとはいえない休眠特許を生み出していた現実が日本にはある。しかし、中小零細企業の特許は、その企業のコア技術であり、市場競争力が高い技術の権利を取得されている場合が多い。この中小企業の特許に対する市場に対する評価が充分に行われれば、財務基盤が必ずしも強くない企業が、非財務的な観点である技術力が示す本来的な価値評価に繋がるではないだろうか。宮崎では、例えば、農業分野、畜産分野において、既に充分な技術力、ノウハウ、営業秘密を有する中小企業も数多い。無形資産を見える化し、市場の評価を検討して、金融機関とともに中小零細企業の活性化を期待したい。(宮崎日日新聞 掲載記事 令和5年1月27日 詳細版)