5 研究開発の緒に特許情報を活用しよう

 前回、企業は、有形資産投資よりも、価値が高い無形資産に今後は投資すべきことを提案した。この無形資産投資とは、具体的には、研究開発投資になるが、これを資金が少なくても「知」を駆使して、取り掛かる方法について一例を紹介したい。

 企業は特許を出願すると、1年6ヶ月で一般公開される。また、特許の審査が終わって、特許権が成立したタイミングでも特許が公開される。この公開情報は、J-PlatPatという特許庁のデータベースで誰もが確認することができる。御存知の通り、特許は特許庁の審査を経て、特許性があるものだけが登録される。したがって、特許出願されたが、登録されずに公開されている特許もある。この特許が成立していない特許情報を活用して、自社の商品開発にアイデアを活かせる可能性がある。また、特許が成立していても、その特許が使用されていない所謂、休眠特許であったり、死蔵特許(発明者ですら忘れ得られている特許)である場合は、その特許権者から特許使用のライセンスを得て、自社の商品開発を行う。これは特許シーズとこれを利用するニーズとのマッチングで、知財マッチングと言われている。昨年、この知財マッチングを行う九州の団体が九経局の補助金で立ち上がっている(iAm:無形資産マッチングサービス)。知財マッチングは若干手間がかかるということであれば、他にも手はある。利用したい技術の特許が成立していても、公開された特許の一部からインスピレーションを得て、異なる課題や解決手段である発明を考えれば、合法的に新商品のアイデアを得ることができる。すなわち、特許情報は着想の宝庫であり、これを研究の緒とすることが可能である。

 平成28年より川崎市は、大企業が持つ休眠特許等の知的財産を中小企業に紹介することで、自社の製品開発を支援するモデルを始めた。このマッチングモデルは、現在では、川崎モデルと呼ばれている。富士通、リコー、ミツトヨ等の大手企業がこの川崎モデルに賛同し、特許を開放している。九州でこのモデルで成功例として知られるのは、大牟田柳川信用金庫のマッチングで、大牟田市内の宅配弁当事業者であるキュリアス社に、キューピー株式会社が特許をライセンスした成功例である。これは、キューピーが持つ根菜類を軟らかくする特許を、高齢者向けの宅配弁当に入れる煮物などに活用している。

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