16 経営の強みが技術の強みを生む
中小企業の経営では、強みを意識した経営を行うことが望ましいと言われる、しかし、自社の強みが何か迷われる会社も多いのではないか。むしろ経営者自身が強みなどあまり意識することなく、日々の売上に格闘しているのが現実とも言えよう。地方都市宮崎には自社の強みを代々受け継いでいる企業がある。
南延岡駅近くの㈱興電舎は、創業昭和21年。創業者はアイロンの無料修理をして名を広め、モーター等の修理事業を始めた。現在では、大手企業から請負した電気関連の事業が主であるが、近年、世界にない独自商品を開発した。「ある企業から相談がありまして、規模の大きい工場の変圧器に電気を流す際に問題が発生します。これは励磁突入電流という電流が流れることで、電気を入れたときに最大20%の電圧が下がるため、工場の電気機器が壊れたり不調を起こしたりする場合があります。これをどうにか解決できないかと相談を受けました。」
同社は当時、九州電力OBの技術顧問と共に電力会社と電機メーカが行う同テーマへの研究に参画し、問題を解決する方法を模索していた。そして、変圧器に残る磁束の位相を正しく把握し、再度電気を入れる際に磁束の位相を調整することで、この励磁突入電流を制御できることを発見した。 さらに、元東芝の技術顧問にアドバイスを得ることもできて、 この制御を行う装置を開発し、特許を取得し、顧客の課題を解決することができた。この装置「Inrush-Limiter T1」は、同社の独自商品となり、現在、世界中から問い合わせを受けている。同社の強みとなる技術は、励磁突入電流を世界で初めて制御したノウハウが詰まったこの「Inrush-Limiter T1」であろう。そして、この技術を生み出す土壌となった独自の強みがある。それは、創業者の意志を継ぎ、周りの人々に役立てることはないかと言う視点で、顧客の課題に応える製品開発を行い、そしてそれを自社の強みとして、世界に挑む。まさしくこれが同社の強みであると言えよう。また、この新商品開発を裏で支えた電気保守事業の従業員の技術力が安定した同社の経営を支えていたことも無視できない。企業のアドバイザが企業の強みとして技術的な強みのみを強調しがちであるが、その技術的な強みを生む土壌は、経営の強みにこそあることを意識したい。